V字研メルマガ
1回3分「ヘコタレをチカラに」 vol.539
by V字経営研究所 代表 酒井英之
「賃上げ当たり前時代…経営者に求められる覚悟とは?」
連合から今年の中小企業の
賃上げ率が発表されましたね。
月額1万1916円、率にして4.50%。
非常に高水準になりました。
https://www.nhk.or.jp/shutoken/newsup/20240325b.html
それを受けてか、岸田首相が
28日の記者会見で思い切った2つの約束をしました。
「まず、24年、物価上昇を上回る所得を必ず実現する」と
「25年以降に、物価上昇を上回る賃上げを必ず定着させる」。
その締めくくりに
「賃金が上がることが当たり前という
前向きな意識を社会全体に定着させていく」と述べました。
https://news.yahoo.co.jp/pickup/6496155
このうち「賃上げが定着する」は当たり前だと思います。
なぜなら、大企業も中小企業も賃上げせざるを得ない
環境だからです。
賃上げの背景には、人財不足があります。
昨今は人口減の影響により、どれだけ募集しても
中小企業には応募者が集まりません。
今後、その傾向はますます強くなります。
現在、全国の45~54歳人口は、1,916万人。
これに対し10~19歳人口は、1,107万人。
57.8%しかいないのです。
https://jp.gdfreak.com/public/detail/jp010050000001000000/16#google_vignette
東京都に至っては半分以下の47.4%です。
https://jp.gdfreak.com/public/detail/jp010050000001013000/16
新卒を採りたいのであれば、
初任給を魅力的な水準まで上げることが絶対条件。
現在、東京都の最低賃金は1,113円です。
人は月間170時間働きますから、
これを月給に換算すると1113×170=18万9210円です
つまり高卒初任給を19万円以上に設定しないと、
法律違反になります。
となると、大卒初任給がいくらか
自ずと見えてきます。
人手不足の先進業界である建設業界の
公共工事労務単価の伸び率を見ると
平成24(2012)年~令和5(2023)年の間に
65.5%も上昇しています。
https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001587029.pdf
人を採用しようと思えば、
それだけ賃金を上げ続けないといけないということです。
まさに中小企業の経営者は
賃金を上げることを決断し、
覚悟を持って挑まないといけません。
賃金水準に限らず、休みの日数、
賞与の月数、決算賞与の支給、
社員の誕生日にプレゼントを贈る、
社員食堂のランチの品質を上げる、
社員旅行を行うなど
社内の福利厚生はトップの専権事項です。
専権とは「単独で決めていい」という意味です。
なぜなら、これらを幹部社員に相談すれば
次のような意見が必ず出るからです。
「そんなに賃金をあげたら赤字になります。
赤字になってもいいんですか?」
「そんなに休日を増やしたら、生産量が落ちてしまいます。
どうやってカバーするんですか?」
「社員旅行をやると言って、
もし誰も来なかったらどうするんですか?」
など、必ずリスクを指摘する人がいます。
これらの意見は、トップが決断するときに、
「やる以上、不退転の覚悟が必要だな」
「赤字にならないように実行するのは
よほど創意工夫する必要があるな」と
気づかせる意味で有益です。
が、リスクがあるからといってやらなければ、
いつまで経っても職場は変わりません。
福利厚生は、設備投資と一緒です。
「業績好調→結果として社員に報いる」ではなく、
「先に休みを増やすことや賃上げを決める
→そのために生産性を上げる
→社員に目標となる指標を与える
→社員が創意工夫してその実現を目指す
→実現し、それを喜び、達成感を味わう」。
この流れを作る先行投資です。
だから、トップの専権事項なのです。
これを実践したのが松下幸之助です。
彼は高度成長時代の1960年。
どこよりも先駆けて5年後の週5日制の導入を発表します。
そして約束の1965年、前年来の不況が深刻化し
従業員も「そんなに休んでいいの?」と思う中、実行します。
それが従業員の勤労意欲と
効率の向上に大きな役割を果たしたのです。
https://holdings.panasonic/jp/corporate/about/history/konosuke-matsushita/123.html
昨今、私がお手伝いさせていただいた
クライアントの中期ビジョンには、
どの会社も実現すべき重点項目の一つに
「休暇〇日」「賞与〇か月」などの目標が入っています。
これらは「できたらいいな」の願望ではなく、
経営者が覚悟を持って実現したい
トップと社員共通の夢であり、約束なのです。
そのためには、社員に「目標となる指標」を
提示する必要があります。
「今期これを実現したら、〇という評価になって
あなたの給与はこれだけ上がるよ」と
期初に約束できる指標です。
その指標は、会社への貢献に繋がるものであり、
社員とってわかりやすく、納得できる
「納得目標」でなければいけません。
営業職はわかりやすいです。
売上や粗利、新規開拓の件数などが指標となるでしょう。
技術や研究職では、どれだけのスキルを身に着けたかも
重要な指標になるでしょう。
また生産職では、1人1時間当で
いくらの付加価値を生んだかといいう
生産性指標が重要な指標となるでしょう。
例えば、カット+シャンプー+シェーブ込みの
床屋の時間は約1時間です。
床屋の原材料はごくわずかです。
ほとんどが人件費です。その床屋の料金は
店によりますが、概ね4,000~5,000円です。
それでいて贅沢な暮らしをしている床屋も
貧乏そうな床屋も存在しません。
床屋の料金は今の日本のサラリーマンが
1時間当でアウトプットすべき
付加価値額そのものを表しています。
その1時間当たり付加価値額を
自分たちの創意工夫と改善活動によって
今よりも高めていければ
賃金を上げることができます。
そこを指標にするのです。
あなたの会社ではそうした指標が提示できていますか?
「賃金が上がることが当たり前という
前向きな意識を社会全体に定着させていく」時代は、
従来のような「ざっくり」「どんぶり」が
通用しない時代です。
「この会社にいた方が楽しいし、得だし」と感じた
社員は離職などしません。ぜひ丁寧な指標を作って、
社員の働きがいを生み出しましょう。
そして、この先何年も続く
人件費高騰時代を乗り切りましょう。
V字研メルマガ
1回3分「ヘコタレをチカラに」 vol.538
by V字経営研究所 代表 酒井英之
「もし繁忙期に部下が有休を申請してきたら」
最近、離職防止をテーマにした
管理職研修の依頼が増えています。
最近私は「Z世代はなぜやめる?
Z世代の生かし方、育て方」という
タイトル講演をさせていただく機会が多いのですが
各社共通の悩みのようです。
そこで管理職の皆さんに、
「どんな時に若手社員どの間で
コミュニケーション・ギャップ を感じますか?」
と尋ねます。
すると最もよく出る意見の一つに
「有休を取るときに周囲に配慮しない」があります。
特に繁忙期で、みんなが忙しくしている時に
「休みたい」と平気で休みたいと言ってくるのが
考えられない…といいます。
確かに管理職としては
「おいおい、その日いないのは困るよ。
少しは他のメンバーことも考えろよ」
と、言いたくなります。
が、そんな本音を表に出して、
「だったら会社を辞めます」 と言われても困ります。
渋々ハンコを押すわけですが、
「なんとかならないか…」と思うわけです。
ではどうしたらいいのでしょう。
そこで以下のような質問をします。
「ではその日、あなたがいなくても
周囲の人が困らないようにするには
どうしたらいいと思う?」
そうすれば
「**の業務だけはその日までにやっておきます」
「**の業務は、〇〇さんでもわかるようにしておきます」
などの回答が得られるでしょう。
休んでも大丈夫な方法を、本人に考えてもらうのです。
申請して休むことは、社員としての権利です。
が、権利だからといって
闇雲に行使して良いわけではありません。
権利を行使してもよい環境をつくるのは
休む者の務めであると気づいてもらうのです。
一度気づくと、次からはごく自然と
そういう配慮をするようになるでしょう。
ですから上記のような質問を
是非してみてくださいね。
さて、問題はその後です。
休んだ人が、休んだ翌日、
周囲の人にしっかり感謝を伝えているかどうか。
そして、休んだことでリフレッシュして
一層モチベーション高く仕事に取り組んでいるかどうか。
注目してみてみましょう。
「日本で一番大切にしたい会社大賞」の受賞企業である
大阪の天彦産業という鉄鋼商社では、
入学式、卒業式、参観日など子供の行事の日は
全て休むように義務付けています。
同社の樋口会長曰く
「そのような日に無理に会社で働いてもらっても
家族のことが気になって生産性が落ちるだけです。
逆に休むと、次の日に非常にモチベーション高く出社し、
普段の150%の仕事をしてくれます。
休暇は自分にも会社にも良い結果をもたらすのです」
休みを取ってリフレッシュし、
生き生きとしている人を見ると
周囲の人も「休んでもらって良かった」と感じます。
さらに休んだ人は周囲の人に
「今度、あなたが休むときは
私が協力するから遠慮なく言ってね」と約束します。
「お互い様」の精神の発揮です。
すると、職場の雰囲気が良くなります。
休みたいときに休めるだけでなく、
ごく自然に多能工化が進みます。
多能工化は、お互い様の精神の産物なのです。
逆にこの仕事は自分の仕事、この仕事はあの人の仕事、
というように縦割り的に発想したら、
多能工化は進みません。
こうした職場では何時まで経っても休みが取り辛く、
技能伝承もなかなか進展しません。
どこまで「お互い様」を考える風土になっているかが
多能工化や技能伝承の実現に大きく影響するのです。
また、学生が就職時にする質問に、
「貴社は休みたいときに休めますか?」があります。
これに対し、同じく
「日本でいちばん大切にしたい会社大賞」を受賞した
宮田運輸の宮田社長は、次のように応えています。
「それはあなた次第です。
あなたが周囲の人と良い人間関係を築いておけば
周囲の人が気持ちよく
『その日の分はやっておくからいいよ』というでしょう。
でもその逆だと、周囲の人から
『それは困ります』と言われるでしょう。
ですから、わが社には、休みが取りやすいとか、
そういうルールはありません」。
宮田運輸はトラックに子供たちが描いた絵をプリントすることで、
運転手も、そのトラックを見かけたドライバーも
優しい気持ちになり、スピードの出し過ぎなど
事故の発生予防に務めている会社です。
そうした人を思いやる風土が
休みの取り方にも現れていますね。
天彦産業も宮田運輸も中小企業でありながら
入社希望者が殺到する人気企業ですが、
人は、制度ではなく風土に惹かれるのです。
また、私のクライアントの社長は、
先日、 Z 世代の若手社員とこんな雑談をしていました。
その若手社員は鉄道マニア(乗り鉄)で、
有休を利用して遠方のローカル線に乗りに行ってきました。
「ローカル線に乗って写真を撮ってくる」は
私にはなんとも理解しがたい趣味なのですが、
社長は彼に次のように声をかけました。
「おい、君の撮った写真を俺にを見せてくれよ」
社員の趣味に興味を持ち、
それを共有しようとする素晴らしい姿勢だと思いました。
有給休暇の取得をきっかけに、
部下はより一層元気に働いてくれる、
お互い様の精神が職場に根付く。
上司と部下は さらに親しくなれる。
こんないいことはないですね。
有休を申請された上司は、
イラっとする気持ちを横に置きましょう。
そして、休みを取ることは
お互い様の風土を社内に根付かせていく
最初の一歩だと考えて行動しましょう。
V字研メルマガ
1回3分「ヘコタレをチカラに」 vol.537
by V字経営研究所 代表 酒井英之
「職場が変わるリスペクト・ミーティング」
毎月一度、戦略会議に出席させて頂いている
クライアントがあります。
入り口はデジタルロック方式。
京アニ事件の後、社長が社員を守るために
カギを付けました。
そのため入るときはベルを押して
中の人を呼びます。
先日、いつものように「V字研の酒井です」と告げると、
「お待ちしていました」との返事をいただきました。
こういうの、なんだかとても嬉しいです。
「いらっしゃいませ」「ようこそ」はあっても、
「お待ちしていました」はなかなかないです。
リスペクトを感じて心にしみます。
そんなリスペクトが、最近どうやらブームのようです。
昨秋、渋谷のパルコで開かれた「いい人過ぎるよ美術館」。
この展示会は、その後全国各地で開かれています。
現在は、広島で開催中。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000002772.000003639.html
何が展示されているかというと、
日常の中に存在する「いい人だね」と
思わず言いたくなるようなシーンが
言葉やイラスト、フィギュア等の形で展示されています。
例えばこんなシーン。
「トレイ返却時に『ごちそうさまでしたー』と言って帰る人」
「オンラインMTGで一人でも画面ONの人」
「『車通りますー』って車を止めてくれる人」(スタンドの出口などで)
「七夕で『ここにある短冊の願いが叶いますように』と
ベクトルがみんなを向いている人」
「自己紹介で『じゃあ、私から』って始めてくれる人」
「ビュッフェでお寿司があることを教えてくれる人」
「コピー機の用紙が切れる前に補充してくれる人」…等
こうした他人へのリスペクトから
生まれた小さな気配りは、
とりわけZ世代の共感を呼び、
多くの来場者を集めています。
また、展示物を掲載した書籍
『いい人過ぎるよ図鑑』も出版されています。
https://books.rakuten.co.jp/rb/17717519/
ブームの背景には、仕事のリモート化が進み、
人間関係が以前より
乾いた感じになっていることがあるのでしょう。
だからこそ、自分が大切にされていると実感できる
リスペクトが有難く心に染みるのだと思います。
こんな心配りが職場に溢れたら、
人間関係は良くなって、離職者も休職者も減り、
きっと業績も上がることでしょう。
そこで私は、幹部社員研修時に、
「ああ、自分は職場で大切にされているな、
尊重されているな」と感じた経験を書き出してもらい、
それを仲間と共有するワークをやってみました。
すると、次のような意見が出てきます。
・帰るときに「お疲れさまでした~」と声をかけてくれた
・自分の心配事に「それは心配だね~」と共感してくれた
・遅刻をした時に、私のことを思って叱ってくれた
・アウトプットを見て「〇〇の才能がありますね」と
フィードバックをくれた
・上手くいかないときに、対策を一緒に考えてくれた
・資格試験に挑む時に、「きっと、大丈夫」と応援してくれた
・一人で残業していると社長が「君はそのままでいいよ」と
声をかけてくれた
・体調不良で半休を取ろうとしたとき上司が
「無理しなくていいよ」と言ってくれた
・上司に相談した時、ノートを持ってきて聴いてくれた
・怒っているお客様に対し上司が一緒に謝りに行ってくれた
・忙しいときに周囲の人が率先して手伝ってくれた
・一時的な業務量過多で焦ったり困ったりした時に、
「分担しよう」と声を掛けてもらえた
・連休で帰省した後、実家の家族の様子を上司が気遣ってくれた…等
いかがでしょうか?
皆さん、身に覚えがあるのではないでしょうか。
とりわけ上司が「ノートを持って話を聴いてくれた」と
というように、細かいことが人に伝わるのです。
この研修では、この他にもこんな意見が出ました。
・常に難題を与えてくれる
・会議で自分の意見が採用された
・自分の間違いを指摘して、フォローしてくれる
・危険な行動を指導してくれる
・「この案件は君に任せたから、やり切ってみろ」と言われた
・計画を提出したときに「任せられるようになったな」と言われた
・関係部署への問い合わせの返事が凄く速かった…等
こうした体験談からわかるのは、
優しさも大事ですが、それだけでなく
成長のための厳しさも必要だということです。
人は群れでないと生きていけない動物です。
群れでいる以上、自分が誰かの役に立たないと
存在価値はありません。
それゆえに本能として「誰かの役に立ちたい」
「できなかったことができるようになりたい」という
成長欲求を持っています。
が、「若い社員に辞められたら困る」とか
「パワハラと思われたくない」などの観点から
厳しく指導できない上司が少なくありません。
するとその部下たちは成長欲求が満たされず、
「ここにいても成長できない」と不満を感じます。
こうした企業を「ゆるブラック」と言います。
「ゆるい+ブラック(闇)」で、
離職原因の一つになっています。
上司は、この優しさと厳しさのバランスを
取りながら、部下を育てていく必要があります。
そのバランスを取るためのキーワードが
リスペクト(尊重)です。
上司は部下をリスペクトし、
部下は上司をリスペクトする。
そして半径5m以内にいる人に、
上記のような心配りを心がける。
そうすれば、会社はきっと楽しくて幸せな場所になります。
私の研修の締めは、上記のように
受講生の体験を書き綴ったホワイトボードを示しながら
「ここに書いたのと同じことを、
部下にしてあげてくださいね」。
単純ですが、社員がお互いの
リスペクト体験を話し合うミーティング。
あなたの社内には見える化できていないだけで
優しくて「いい人過ぎる」人も
厳しくて「いい人過ぎる」人が大勢います。
ぜひ、貴方の職場でもリスペクト・ミーティングを
実施してみてくださいね。