vol.508「なぜ『一流の製品は、一流の人格から』なのか?」

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 1回3分「ヘコタレをチカラに」 vol.508

          by V字経営研究所 代表 酒井英之

 

「なぜ『一流の製品は、一流の人格から』なのか?」

 

「モノをつくる前に人をつくれ」。
あなたもどこかで聞いたことがあると思います。
これは、松下幸之助翁の言葉です。

 

正確には「松下電器は何をつくるところかと尋ねられたら、
松下電器は人をつくるところです。
併せて電気器具もつくっております。こうお答えしなさい」
と、社員に語ったという逸話があります。
https://hrd.php.co.jp/hr-strategy/hrm/post-73.php

 

同じことを豊田喜一郎さんは、以下のように伝えています。
「モノづくりは人づくり」。
https://global.toyota/jp/newsroom/t-road/25327177.html

 

さらに、機械メーカーの西島株式会社では
以下をモットーとしています。
「一流の製品は、一流の人格から」
http://www.nishijima.co.jp/

 

この言葉に最初に触れた時、私は「?」と思いました。
ボタンを押せば、機械が動いてモノはできます。
誰がボタンを押しても同じモノができます。
ですから、モノをつくる前に人を育てる必要など
ないのではないか?という疑問です。

 

そこで、製造業で社員研修の講師をするたびに、
「なぜ、モノをつくる前に、
人をつくらなければいけないのでしょうか?」と、
受講生に言いかけています。

 

すると、どの会社でも、以下のような意見が出てきます。
・チカラを合わせる方針やルールを作る
(のは人である。機械にはできない)
・より魅力的な商品を創る(〃)
・お客様の要望に応じて改良する(〃)
・トラブルに対処し再発防止策を図る(〃)
・より働きやすい環境を創る(〃)
・創意工夫で生産性を上げる(〃) …etc

 

なるほど、いずれもごもっともです。

 

ただ、それでも私は「何か足りないな」と感じていました。
特に疑問が残るのは、西島(株)が語る
「一流の製品」と「一流の人格」の関係性です。

 

その何かを、先日見つけることができました。
それはマグロ丼専門店の人気の秘密について、
焼津市の(株)マルイリフードサプライの寺岡社長と
話した時のことです。

 

社長の本業は、冷凍マグロの加工卸です。
巨大な冷凍庫に、焼津港で水揚げされたマグロを保管しています。
そして、注文に応じてマグロをノコギリでカットし、
市場や回転寿司等に出荷しているのです。
https://www.maruiri.co.jp/

 

その同社が、「清水港みなみ」「焼津港みなみ」
「まぐろのみなみ人宿町」
というまぐろ丼の専門店を3店舗、
静岡駅周辺で営業しています。
「みなみ」のネーミングは、南マグロに由来します。

 

この店が、すこぶる評判が良いのです。
駅前にある「清水港みなみ」の場合、
「食べログ」の点数は3.74点。
口コミは856件(23年5月9日現在)です。
https://tabelog.com/shizuoka/A2201/A220101/22016103/

 

人気の秘訣を社長に聞いたところ、
まずはコスパが良いことがあります。
これは、同社が冷凍魚卸を営んでいることから、
一般店よりも好条件で素材を仕入れているからです。

 

が、それだけではありません。
私も同店のまぐろ丼を食べたことがありますが、
刺身がもちもち、トロトロで美味しいのです。
社長は、このもちもちトロトロの食感を
「熟成度が高い」と表現しています。

 

社長によると、この熟成度は
「冷凍マグロの解凍の仕方で決まる」と言います。
何時に料理に出すから、
その時に一番美味しくするには何時に解凍したらよいか、
それを考えて解凍を始めると言います。

 

しかも、季節によって解凍の速度は違います。
冬、気温が低い時は何時から解凍する。
夏、気温が高い時は何時から解凍する。
また漬け丼のように、味を染み込ませる商品は、
気温によって塩や醤油の染み込み具合が変わります。

 

このように職人はその日の環境に合わせて、
細かいことに気を配りながら
仕込んで行く必要があるのです。
「この気配りこそが大切だ」と社長は言います。

 

例えば、解凍に10時間必要だと言って、
マニュアルに「10時間で解凍する」と書いてしまうと、
季節によって味が全然変わってしまいます。

 

それよりも「この食感、この味を出すためにものを作る」。
そのために、日々変わる環境に合わせて
お客様に「本当にこのまぐろ、美味しいね!」と喜んでもらうには
どうするのがベストなのかを考えて行動を選択する。
この繊細な思いやりと行動力が必要なのです。

 

この環境の中には、接客力も入ります。
行列ができるお店です。
寒い日は寒い中、暑い日は暑い中、
1時間以上並んでるお客さんが少なくありません。

 

そうしたお客さんがやっと店に入れた時に、
「お待たせして申し訳ありませんでした」や
「今日もご来店ありがとうございます」の一言が
言えるかどうかはとても大事です。

 

さらに、お客様や営業担当者の声を真摯に聴く。
そしてその要求に丁寧に答える。
これも、表面的な言葉だけでなく、
真意を汲み取りながら聴く姿勢が必要です。

 

こうした話を社長から聴いているうちに、
「一流の製品は、一流の人格から」という
教えの意味がようやくわかっていました。

 

モノをつくる人は、どんな動作をすればいいかという
動作を覚えるだけでは全然足りません。
求められている仕上がりに責任を持ち、
その仕上がりを出すために努力や創意工夫を惜しまない。
これこそが「一流の製品は、一流の人格から」の真意ということです。

 

そう考えると、ものづくりの醍醐味は
何がどれだけ売れたという結果よりも
それを作り込んでいるプロセスの中あるのだと気づきます。

 

食べログの点数や書き込みの数などお客様の評価は
自分でコントロールできるものではありません。
そこに一喜一憂しても仕方のないことです。

 

それよりも、まぐろという素材に対する感謝や興味、
お客様への感謝とリスペクト感こそ、
誇りに思うべきなのでしょう。

 

結局のところ、ものづくりは人間力次第です。
人間力とは、教育学者・森信三先生の語る
「時を守り、場を清め、礼を尽くす」。
この基本を徹底していきたいですね。