vol.493『ゴリラに学ぶ、オンラインコミュニケーションの限界を打破する方法』

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 1回3分「ヘコタレをチカラに」 vol.493

          by V字経営研究所 代表 酒井英之

 

『ゴリラに学ぶ、オンラインコミュニケーションの限界を打破する方法』

 

師走ですね。
最近、お会いする人に同じことを聞かれます。
「近頃はオンラインとリアル、どちらが多いですか?」

 

私の肌感覚では、コロナ前に比べると、
単なる「打ち合わせ」や「インタビュー」なら、
オンラインが圧倒的に増えました。

 

が、研修はほぼリアル開催です。
オンラインで実施するのは、大企業主催のものか、
多拠点の人が一斉に参加する学習会に限られます。

 

同じ会社の人が集まって学び議論する研修では、
リアルが圧倒的に多いです。

 

先日、私がメイン講師を務めた
第3期新聞経営革新塾が終わりました。
新聞経営革新塾は、その名の通り、新聞販売店を対象に、
自社のビジョンを考え、自らを変革していこうという塾です。

 

主催は「新聞通信社」という新聞販売店を対象にした業界紙で、
8月から毎月1回、計5回行われました。
参加者は、全国の新聞販売店の二世経営者約20名です。

 

参加者に参加目的を尋ねると、主に2つでした。
ひとつは、右肩下がりが続く業界の中で、
自分自身の希望となるビジョンを描くことです。

 

もうひとつは、人脈づくりです。
新聞販売店は朝日新聞の専売店や読売新聞の専売店など
系列に分かれています。ところが、この塾には
朝日新聞の販売店もいれば、読売新聞の販売店もいます。

 

同じ悩みを抱えている比較的歳の近い人たちが交流することで
今後色々と相談できる仲間を増やしたいと思っているのです。

 

この20名は全国から参加しますから、
第1回から第4回まではオンラインで開催しました。

 

1回3時間半の講義のうち、
40分程度、グループに分かれてディスカッションします。
メンバー同士は意見交換するので、
親しくなるチャンスはあります。

 

が、それだけだと人脈と呼べる関係にはなりません。
お互いに連絡を取って「何かあったら相談するよ」
という所までは行かないのです。

 

そこで、受講生が自分のビジョンを発表する最終回だけは、
オンラインでの受講を希望する人と
リアルに集まって受講したい人が選択できる
ハイブリッド型で開催しました。

 

その結果、約半数の人がリアルに参加しました。
また1期生、2期生のOBにも声をかけたところ、
大勢が参加してくれました。
そして、終了後には希望者だけで打上げ&懇親会を行いました。

 

この懇親会は、開放感や達成感に満ちた、
大変楽しい会になりました。
そして、参加した人たちは、今後お互いに連絡を取り合い、
何かあったら気軽に相談できる関係になったのです。

 

ここで一つ疑問が出てきます。
「なぜ人はリアルに会い、懇親会等に参加をすると
今まで以上に親しくなるか?」です。

 

このことについて、京都大学元総長で
霊長類の研究者として有名な山極壽一先生は
次のようにおっしゃっています。

 

ゴリラはお互いが同じ一族かどうかを
お互いを触り合う触覚とお尻の匂いを嗅ぐ嗅覚、
そして味覚を共有することで判断します。

 

このうち、味覚の共有は、食べ物を共有することです。
霊長類は、人間のように食べ物を分け合うことをしません。
食べ物等を食べる時は、最初にボス猿が食べます。
ボス猿は腹一杯になると、その場を離れます。

 

その残りを、他の猿が順番に食べていきます。
こうする事によって味覚を共有するのです。
その一方で、視覚や聴覚は、同じ一族かどうかを判断する上で
はほとんど使われないのです。
https://cybozushiki.cybozu.co.jp/articles/m001351.html
https://cybozushiki.cybozu.co.jp/articles/m001350.html

 

これを人間に置き換えて考えると、
人を自分の仲間かどうかを判断する重要なポイントの一つが
触覚、嗅覚、味覚を共有できるかとなります。

 

そして、これらの感覚は、
オンラインでは共有できないものばかりです。
オンラインで共有できるのは、人が持つ5感のうち
視覚と聴覚のみ。だからなかなか親しくなれないのです。

 

ところが、上記のような宴会を開くと、
味覚もその場の匂いも共有できます。
さらに乾杯でグラスをカチンと合わせる触覚も共有します。
いわゆる同じ釜の飯を食う体験をすることで、
自分たちは仲間だという親近感を覚えるのです。

 

このことに関連し、別のコミュニティを
主催している人が興味深いことを教えてくれました。

 

その人はある勉強会のファシリテータをやっています。
ディスカッションのテーマはケーススタディで、
リアルで開催していた頃は毎回活発な意見が出る
楽しい勉強会でした。

 

が、昨年はオンラインで開催しました。
すると、同じケーススタディでも
メンバーがちっとも発言せず、
すっかり冷めた勉強会になってしまったというのです。

 

そこで今年は、ある工夫をしました。
ディスカッションそのものはオンラインなのですが、
この勉強会の初回に、受講生を一度リアルに集め、
懇親会を開催したのです。

 

すると、上記のケーススタディの時は、
リアルの開催時と同じぐらい様々な意見が出て、
大変に盛り上がったというのです。

 

一度懇親会を体験することで、
メンバーは「この仲間なら、自分が発言しても
否定されたり、無視されたりするようなリスクはない」という
心理的安全性を感じ、警戒心を解いたのです。

 

知識や情報の共有なら、オンラインで充分です。
が、そこに人脈作りのような「関係性の構築」が目的なら、
一度はリアル開催を加味した方が良いでしょう。

 

仮にコロナ禍がひどくなり、再び緊急事態宣言が出たとしても
オンライン化で対応するよりは、
可能であればコロナ終息まで待って、
リアルで開催した方が良いでしょう。

 

オンラインで何かと便利になった世の中ですが
リアルな出会いに勝るものなし。
そう感じる年末です。