vol.483「日野自動車不正調査報告書からの学びと気づき」

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 1回3分「ヘコタレをチカラに」 vol.483

          by V字経営研究所 代表 酒井英之

 

「日野自動車不正調査報告書からの学びと気づき」

 

日野自動車で長年にわたるデータの不正が発覚しましたね。
全車種が出荷停止になると非常事態になっています。
「また大企業が…」とガッカリされた方も
多いのではないかと思います。
https://www.jiji.com/jc/v7?id=hinomotors

 

そこで、公開されている日野自動車の
不正報告書を読んでみました。
https://www.hino.co.jp/corp/news/assets/fced6926512deeb243b3898670ef882a.pdf

 

この報告書の調査委員会は
問題発生の真因として以下のようにまとめています(P248)。

 

真因① みんなでクルマをつくっていないこと
真因② 世の中の変化に取り残されていること
真因③ 業務をマネジメントする仕組みが軽視されていたこと

 

メーカーの人間として、真因①は非常に厳しい一言です。
私もメーカー出身者なのでよく分かるのですが、
誰かに「貴方の会社はみんなで作っていないね」と指摘されたら、
その瞬間に全身から風船がしぼむように力が抜けてしまう…
それぐらい情けない一言です。

 

その原因の一つが、「上の人には逆らえない」企業体質です。
以下、報告書からの抜粋です。

 

(引用ここから P259)
日野においては、エンジン開発における過去の先駆者や
功績者に対する尊敬の念が強く、
上の世代の言うことには、素直に従うことが
美徳であるという気風があるように見受けられる。
それは尊敬の念というよりは、畏怖の念かもしれない。

 

開発に関連する資料や議事録等を見ていても、
上位者の何気ない発言に対しても、下位者が過敏に反応し、
対応策を検討しようとする様が目に付く。

 

その典型例は、E7規制対応のエンジン開発において、
鈴木技監が土壇場になって燃費改善の指示をした際に、
指示を受けた管理職は、
その実力やスケジュール等からすれば、
対応が困難である旨を具申すべき場面であったにもかかわらず、
燃費改善を安請け合いしたことであり、
結果的にパワートレーン実験部における
燃費性能を偽る行為に繋がった。
(中略)

 

こうした気風が行き過ぎると、
やがて「上に物を言えない」、「できないことをできないと言えない」
風通しの悪い組織となり、最終的には、E7のように、
押し付けられた「無規制対応エンジンにおける燃費の問題理」を
不正行為で成し遂げてしまうところまで行き着くのである。
(引用ここまで)

 

上の人が絶対だという考え方は
若い人たちのモチベーションを奪っている様子がよくわかります。
また、P229からの社員アンケートの言葉の
生の記載は、その実態をとてもよく表しているので
ぜひ読んでみてください。

 

さて、こうした体質についてベストセラーとなった
『ニュータイプの時代 新時代を生き抜く24の思考・行動様式』の
著者・山口周先生は、面白いデータを元に
「これは人間としての性」だと伝えています。

 

飛行機は、機長と副操縦士の2人で
操縦することが法律で定められています。
なぜなら運転中に処理する情報量が余りにも多く、
一人では処理しきれないからです。

 

そして、過去に飛行機事故が起きた状況を分析すると
機長が操縦桿を握っている時に事故が起きる確率が
副操縦士が操縦桿を握っているときに起きる確率より
はるかに高いことがわかっています。
つまり、副操縦士が操縦している時の方が安全なのです。

 

普通に考えれば、機長の方がフライト経験も豊富で、
操縦が上手いように思います。
それでも機長操縦時に事故が発生する確率が高いのは
副操縦士が、機長に対してアドバイスし辛いからです。

 

副操縦士が操縦している時、機長は様々な計器を見ながら情報を得ます。
そして「このデータに気が付いているかい?」
「ここは、こうした方がいいんじゃないか?」とアドバイスします。
このアドバイスに、副操縦士は素直に従います。
だから事故が少ないのです。

 

ところが、機長が操縦している時に副操縦士は機長に
「このデータに気づいてますか?」
「ここはこうした方がいいんじゃないですか?」
とは言い難いのです。
「ひょっとしたら、機長は気づいているのかもしれない」
「気づいているのかもしれないのに、
指摘してしたら気を悪くするかな…」などと忖度し、
言葉を飲み込んでしまうのです。

 

結果的にそれが事故につながります。
これは日本だけでなく世界中で見られる傾向です。
が、これを克服しないと会社としての成長はありません。

 

そのことを気づいている会社は、
「否定の精神」の重要性に気づき、
それを歓迎することを企業文化にまで高めています。

 

例えば創業210余年になるミツカンは、
創業以来の精神として以下の「2つの原点」を伝えています。
「買う身になって まごころこめて よい品を」
「脚下照顧に基づく現状否認の実行」です
https://www.mizkanholdings.com/ja/group/philosophy/

 

「脚下照顧」は、自分の足元を照らして自分を省みて
かつては良いことであっても、今は良くないことについては
それを否定して、どんどん自分をリニューアルしろという意味です。
否定をし、アップデートすることが進歩だと伝えています。

 

また、セコムは組織の風土が常に革新的であり、
濁りのない清冽なものであり続けるために、
あるべき考え方、あるべき姿を、
「運営の基本方針」として定めています。

 

その第7条に、以下の一部があります。
「セコムは、常に革新的でありつづける。
そのため、否定の精神、現状打破の精神を持ちつづけ絶やさない」
https://www.secom.co.jp/corporate/csr/management/philosophy.html

 

ミツカンやセコムが敢えてミッションに入れている
「否定の精神」は、「心理的安全性の確保」と同義語です。
思ったことを言いやすい風土、言った物負けにならない風土、
発言を受け入れて対話する風土をどう作るかが、
今、企業に問われています。

 

皆さんの会社は、
過去の成功体験や閉じた世界での高評価により、
変化することを拒んでいないでしょうか?

 

自分たちのやり方を正しいと信じ込み、
世の中の変化に取り残されていたとしても、
それを良しとする見て見ぬふりをする傾向はないでしょうか?

 

もし少しでもそのような可能性を感じるのなら
日野自動車の不正調査報告書に 目を通していましょう。
そして若手たちの自由闊達なマインドを活かすために
何を改めるべきか考えてみましょう。