vol.438『報酬日本一を実現した、ある有名企業の秘策とは?』

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 1回3分「ヘコタレをチカラに」 vol.438

          by V字経営研究所 代表 酒井英之

 

『報酬日本一を実現した、ある有名企業の秘策とは?』

 

東京五輪で日本の金メダルラッシュが続いていますね。
ほんの一週間前まで、ニュースはコロナのこと一色で
わが国は大変暗いムードにありました。

 

それが随分明るく感じるのは、
五輪選手の活躍と、それを明るい顔で伝える
メディアによるところが大きいです。

 

会社でも暗澹たる状況が続くことがあります。
右肩下がりの状態が続くと、
職場の雰囲気はどんどん暗くなります。

 

こんなとき、社員は将来に希望を見出せず、
責任者である社長と上司への影口が横行します。
そして、こんなところでは働けないと、
一人また一人と離職者が出ます。

 

それをリカバリーするため、一人当たりの仕事量は増えます。
が、それが給料に反映されるわけではないので、
辛さばかりが増えていきます。
こうして社内のムードはどんどん悪くなります。

 

このような時にトップが暗い顔をしていると、
職場全体がますます暗くなってしまいます。
職場の雰囲気を決定付けるのは、トップの表情と言動です。
それが職場全体に移るのですがこれを「情動伝染」と言います。

 

にぎやかな居酒屋やコンサート会場に行ったときに
こちらが晴れやかな気持ちになることがあります。
逆に沈痛な雰囲気の葬式に参列したとき、
気持ちが沈むなることがあります。これが情動伝染です。

 

この情動伝染の影響で、トップが不機嫌でいると
いつ自分が叱られるのではないかと部下はビクビクし、
緊張、焦り、不安を感じます。

 

それが部下の精神的疲労を生み出します。
人は、肉体的には楽な仕事でも、
精神的疲労の多い仕事には耐えられません。
それが離職者を増やす悪循環を生み出します。

 

では、この悪循環を断ち切るには
どうしたらよいのでしょうか?

 

仕事には2つの報酬があると言います。
一つは金銭的な報酬です。もう一つは心理的な報酬です。
経営が苦しい時、金銭的な報酬では、
報いてあげることはできません。
が、心理的な報酬を大きくすることはできます。

 

心理的な報酬とは、承認とか愛です。
その人の仕事ぶりを「いいね!いいね!」
「すごい!さすが!素晴らしい」と認めることです。
金銭的な報酬が有限であるのに対し、
心理的報酬はコストがかからず無限です。
そのため、どこまでも大きくすることができます。

 

東京ディズニーランドでは1983年の開園当初、
経営が大変苦しく、アルバイト契約社員の給料は
世間相場に比べれば随分安いものでした。

 

このときディズニーランドでは、
「当社は報酬日本一の会社を目指します」と宣言しました。
以下はその時の主張です。
「報酬は、金銭的報酬と心理的報酬の足し算です。
金銭的報酬には限界はありますが、
心理的報酬は無限に大きくすることができます。
心理的報酬をどこよりも高くして報酬日本一を目指します」。

 

そして実践したのが、社員一人ひとりに「いいね!」を
伝えることです。

 

当たり前のことがちゃんとできたら「いいね!」です。
人並み優れたパフォーマンスを発揮した人にだけでなく、
やるべきことをちゃんとやったら誰に対しても
「〇〇さん、いいね!酒井課長は満足しました!」です。

 

わが国では、当たり前のことを当たり前にやると、
「そんなの、できて当然だろう」と考え、ほめたりしません。
ご主人や子供が奥さんやお母さんにご飯やお洗濯などの感謝や
御礼を言わないのと同じです。
そこを「ほめる」「感謝する」のです。

 

すると、どうなるか。
奥さんやお母さんにほめたり感謝したりしたときに起こる
変化を想像すれば、誰でもわかります。

 

が、こんな簡単なことができないのは、
単に国民性の問題だけではありません。
これはほめる側の人が自分自身への満足や充実を
感じていないとできないのです。

 

「自分をほめて欲しい」「自分をもっと認めて欲しい」と
心が乾ききっている人が、他者を観察し、
「いいね!いいね!」と認める心の余裕はないのです。

 

マザーテレサは「この世界は食べ物に対する飢餓よりも、
愛や感謝に対する飢餓の方が大きいのです」と語りましたが、
会社の中には愛や感謝に飢えている中間管理職が大勢います。
その人たちに、部下を承認せよと言っても無理なのです。

 

よってまず、社長や役員クラスが
中間管理職に「いいね!いいね!」を出します。
これは赤字続きの状況下では大変苦しいことですが、
部下に関心を払い、質問をし、部下の状況を把握する
時間を創れば可能です。

 

そうすると、中間管理職は部下に
「いいね!いいね!」を出すことができます。
すると現場の人のモチベーションは上がり、
現場で発生した問題に迅速に適切に対応できます。

 

すると赤字の流出が止まり、
新たな戦略に必要なヒントが見つかります。
会社はそこから変わり始めます。

 

経営が苦しい時、一番大切なのは、
心まで乾かさない、ということです。
そのためにも、社長や役員が悲観的になったり、
不機嫌になってはいけないのです。

 

あるリサイクルショップの商品再生の現場には
こんな色紙が掲げてありました。
「外注さんへ 一人一人、一つ一つがお店の宝です。
ありがとう。(署名)」。
トップのこの姿勢が、明るい空気を生み出します。

 

さあ、あなたの会社のメダリストは誰でしょうか?
第一線で活躍している自社の選手を陰ながら支え、
応援してくれているパートさん、嘱託さん、
協力会社の人は誰でしょうか?
その人たちをケアし、サポートしている
中間管理職は誰でしょうか?

 

そんな人たちを見つけてみてください。
そして、その人たちに言葉の金メダルを贈りましょう。
そこからV字回復は始まるのです。