vol.431『間違いだらけの優先順位~あなたの会社は大丈夫か?~』

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 1回3分「ヘコタレをチカラに」 vol.431

          by V字経営研究所 代表 酒井英之

 

『間違いだらけの優先順位~あなたの会社は大丈夫か?~』

 

突然ですが、あなたがディズニーランド内の
ハンバーガーショップの店員(キャスト)だとします。

 

今、あなたの目の前で、
小さな子供がジュースの入ったコップを落とし、
ジュースが床にこぼれて泣いてしまいました。

 

そこで問題です。
この後、あなたはどんな行動をとりますか?

 

A.床にしゃがんで紙ナプキンでジュースを拭きとる
B.紙ナプキンをジュースにかけ、立ったまま足で拭く
C.ジュースより、まず泣いている子供を癒す

 

ディズニーランドのマニュアルには次のようにあります。
1 他のお客さんが滑って転ぶのを防ぐため、
  こぼれたジュースの上に紙ナプキンを乗せる
2 足で紙ナプキン踏んで左右に動かして
  ジュースを足で拭き取る
3 コップと紙ナプキンを拾ったら、
  子供に「もう大丈夫だよ」と伝え、
  カウンターのキャストを指さして、
  「あのお姉ちゃんところへ行きなさい。
  そしてもう1回ジュースをもらってきない」と伝える

 

つまり、正解はBです。
皆さんはこのマニュアルを読んでどう感じましたか?

Bは行儀が悪いな…と違和感を覚えた人もいると思います。

 

しかし、これは安全に配慮した作法なのです。
床にこぼれたものを拭くとき、しゃがんで手を使って
雑巾で丁寧に拭き取るのが正しいように思えます。

 

が、しゃがんだ人は周囲の人からは見えません。
キャストが床を拭いている最中に、
歩いてきた誰かとぶつかってしまうかもしれません。
すると新たな事故が起きてしまいます。

 

こうしたことがないよう、
ディズニーランドではお客様(ゲスト)の目線より
低い高さで作業をしてはならないという安全基準があります。
それを守るため、床にこぼれたジュースを足で拭くのです。

 

ディズニーランドでは、こうした判断を
全従業員が自分でできるよう、
物事の優先順位が明確に示されています。
その優先順位をSCSEと言います。

 

SCSEは、安全(Safety)、礼儀正しさ(Courtesy)、
見た目(Show)、効果(Efficiency)の頭文字で、
この順番に重要だというのです。
http://www.olc.co.jp/ja/csr/safety/scse.html

 

このケースの場合、床のジュースを足で拭くのは
礼儀正しさを欠いた行動です。礼儀正しさは2番目です。
それ以上に安全(Safety)の方を優先するので、
「手で拭かずに足で拭け」がマニュアルなのです。

 

安全が何に勝ることは、
マズローの欲求五段階説を見ても明らかです。
安全欲求は、第2段階の欲求です。
安全で安心できる環境でない限り、
人は「ここにいて幸せだ」と感じることはできないし、
「自分から進んで何かをやろう」という気にはなれないのです。

 

東京五輪に絡んで、このことを指摘したのは
政府の分科会の尾身茂会長でした。
尾身会長は「この状況ではありえない」とはっきり言いました。

 

そして「それでもやるというのなら、
何のために開催するのか明確なストーリーと
リスクの最小化をパッケージで話さないと、
一般の人は協力しようと思わない」と語りました。

 

これは、目的に納得できる場合のみ、
安全性は犠牲にしていいという
尾身会長が政府に出した助け船でした。

 

実際に「戦争に行けば命を落とす危険がある。
しかしお国のためだから頑張ってくれ」。
ほんの70年前には、国民はその目的に納得し、
危険を受け入れていました。

 

こうした指摘を受けて菅総理大臣は、
五輪の目的について語りました。
その目的とは次のようなものでした。

 

「平和の祭典、一流のアスリートが東京に集まって、
スポーツの力で世界に発信していく。
さらに、様々な壁を乗り越える努力をしている。
そうした努力をしっかりと、世界に向けて発信していく」

 

いかがでしょうか?この目的のためにあなたは
感染拡大リスクを受け入れることはできるでしょうか?

 

ほんの少し前まで、経営においても安全性が軽視されていました。
過労死が世界一なのに、長時間労働が当たり前に行われていました。
職場にはパワハラやセクハラがあふれていました。

 

根源にあるのは、会社の成長とお客様の満足が
従業員の健康や安全に優先するという優先順位でした。

 

しかし、労働人口が減少し、国際競争が激しくなる中、
生産性を高める以外にわが国が成長する道はなくなりました。
そこで必要だったのは「働き方改革」です。

 

従業員が肉体的+心理的な安全性を確保できる環境を作り、
主体的に仕事をしてもらう。
わが国は法律の改変を行い、そちらに舵を切りました。

 

そのおかげで、社員数は増えていないのに

売上や利益が成長する会社を続出しました。
コロナ禍でも史上最高益を出した会社が1/4あります。
私のクライアントにもそのような高業績企業が何社もあります。
顧客第一から従業員第一の経営に切り替えたことが、
ピンチをチャンスに変える原動力になったのです。

 

大坂なおみ選手が全仏オープンを欠場しましたね。
彼女もまた、心理的な安全性が確保できなければ
持ち前のパフォーマンスが発揮できないと判断したのです。

 

大会にとって彼女は世界ランク2位の最重要選手です。
が、そんな公的な立場より自分自身の安全・安心を
優先した賢明な判断だと思います。

 

大切なのは、意思決定の基準です。
ディズニーのSCSEのように
あなたの会社流の優先順位を明確にしましょう。

 

そして意思決定をしたら、社員に説明し、
納得を得て全社一体感を高めていきましょう。