vol.398『リーダーは許される人であれ』

V字研メルマガ

 1回3分「ヘコタレをチカラに」 vol.398

          by V字経営研究所 代表 酒井英之

 

『リーダーは許される人であれ』

 

7月13日と20日に、理念経営協会の窪田理事長と
無料のトークセッションを行いました。
このメルマガでも募集しましたが、
総計60名以上の方にご参加いただき感謝申し上げます。

 

そのとき「トップが弱さを見せてよいのか?」
という質問をいただきました。

 

ここでいう弱さとは、トップが「あれしろ」「これしろ」と
部下に指示命令をバンバン飛ばすのではなく、
社員に「すまない、想定外のことが起きた。
君ならどうする?一緒に考えてくれないか?」と
素直に社員の力を借りるべくお願いや相談することです。

 

これに対し、窪田理事長の回答は「YES」。
曰く「社長は社員から『すごい!』と
尊敬される人である必要はありません。
『許される人』であることです」。

 

この場合の『許される人』とは、社員から
「仕方ないなあ……ならば、社長のために
一肌脱ぎましょう」と思ってもらえる人。
「俺たちがこの人を助けるんだ、応援するんだ…」
そう思ってもらえる人、ということです。

 

窪田先生のこの回答を聞きながら
私は二人の経営者のことを
思い浮かべていました。

 

一人は、「働きやすく生産性の高い企業・職場表彰」
で厚生労働大臣賞を受賞した
河合電器製作所の佐久真一社長です。
https://www.kawaidenki.co.jp/

 

佐久社長とは、中小企業大学校の
社長向けイベント『トップセミナー』で
対談させていただきました。
そのとき、佐久社長は受講者に次のように語りました。

 

「社長が自己顕示欲を持ってはいけません。
社長の多くは『自分はすごい』と言わないと
人はついてこないと思っています。
が、それは間違い。
それをやればやるほど人は離れていきます」

 

この発言に対し会場にはどよめきが起きました。
「え、そうなの?」という反応です。
会場の多くは、二世、三世の社長さんです。

 

先輩社員になめられてはいけない、
先代と同じように威厳がなくては……と、
自分が好む・好まないにかかわらず、
日々鎧を着ていたのです。

 

佐久社長も、会社を継いだ当初はそうでした。
リーダーシップの本を多く読み、
セミナーにも通ったといいます。

 

そこで学ぶリーダー像は、
指示命令をバンバン飛ばすリーダーでした。
そして先代同様に『社長はすごい』と
言われる人物を目指しました。

 

しかし佐久社長はある持病がありました。
そのため会社で体調を崩すことがしばしばありました。
それを周囲に悟られまいとしてぐっとこらえていると、
表情がこわばり、汗をかいてしまいます。

 

それを見た社員は「なぜ社長はいつも
あんなに不機嫌なのだろう?」と考え、
次第に距離を置くようになりました。

 

「これではいけない」と気づいた佐久社長は、
ある決断をします。
それは、持病のことを素直に話すことでした。

 

持病を告白することは、弱さを見せることです。
受け止め方次第では「こんな社長にはついていけない」と
社員が辞めてしまうリスクもある、勇気を伴う決断でした。

 

ところが、告白してみると驚くべきことが起きました。
社員達は「なんだ、そうだったんですか」と
社長の病気のことを受け止めてくれました。
「別に不機嫌だったわけじゃないんですね」と、
逆に安心してくれたのです。

 

そして「ならば社長を私たちが一生懸命やりますから
社長は無理しないでください」と、
どんどん社員が主体的に動き始めました。
社長にできないことを、積極的に引き受けてくれたのです。

 

それからというもの、
主体性発揮が同社の風土になりました。
それが「働きやすく生産性の高い企業・職場表彰」
厚生労働大臣賞の受賞につながったのです。

 

私が思い出したもう一人の許される経営者は、
私が若い頃勤めたブラザー工業の
安井義博社長(現相談役)です。
安井社長は二世経営者で、常に穏やかな表情で、
その風貌からはほとんど威厳を感じません。

 

顔がおにぎり型であることから、
女子社員たちからは「おにぎり君」と
あだ名で呼ばれていたほどです。

 

安井社長が会社を継いで社長に就任した頃、
ブラザー工業は業績がガタガタでした。
したがって社内からは「頼りない」と見られていました。



しかし、見かけたらいつも声をかけてくれる優しい人でした。
20人ほどの東京営業所に顔を出して、
「よくやってくれている」とご馳走してくれたこともあります。

 

そんな安井社長について、先輩はこんなふうに言いました。
「あの人のうれしそうな笑顔を見ると、
これまでの苦労とか全部吹っ飛ぶんだよな~
頑張ってきてよかったなぁって思うんだよな~」

 

先輩にそう言われて、
確かに自分もそうだと思いました。
褒められると、とても気持ちよくなってしまう人なのです。

 

私のクライアントにも、
こうした許されるタイプの社長は何人もいます。
そのような会社は、佐久社長の河合電器製作所と同じように
周囲のモチベーションが高いのです。

 

そして、そのことを社長がとても喜んでいます。
「皆がこんなふうにやってくれるのです。
それが私とても嬉しいんです」。
このタイプの社長からは、そんな話をたくさん聞きます。

 

危機に際し大切なのは、
既成のリーダー像に自分を当てはめることではありません。


リーダーとして一歩先を見つめることと、
組織に対し誠実であること。
そして、常に自分らしくあることを追求しましょう。