vol.362「ラグビーに学ぶ『犠牲』に気づく大切さ」

2019/10/31

V字研メルマガ

 1回3分「ヘコタレをチカラに」vol.362

 by V字経営研究所 代表 酒井英之

「ラグビーに学ぶ『犠牲』に気づく大切さ」

ラグビーの人気が続いていますね。
何よりも日本代表の頑張りと
ラガーマンたちの紳士な姿勢に感動しました。

日本代表がベスト8で終わった翌日の記者会見で
キャプテンのリーチマイケルが次のように語りました。
「このチームのキャプテンができて誇りに思っている。
ベスト8は凄くうれしい。
そのために色々な選手が犠牲になって、
家族も犠牲にしてやってきた。
今後について、しっかり考えていきたい」

この「犠牲」という言葉に
彼のキャプテンシーを感じます。

彼らが目標としてきたのは、新たな歴史を作ること。
そのためには、年間200日以上の合宿が必要でした。

当然、愛しい家族と一緒にいる時間を我慢する。
自分のやりたいことを我慢して、仲間に献身する。
その我慢と献身を受け容れてくれる人がいて、
初めてこの偉業が成し遂げられた。
リーチの言葉はそうした我慢をしてくれた人たちへの
敬意に満ちたものでした。

しかしながら、この犠牲が行き過ぎると
大切なもの壊してしまうリスクがあります。
中小企業経営者で、特に中興の祖に多いのが
仕事に打ち込むあまり、
家族を犠牲にしてしまうことです。

本人は、自分は社会のために頑張っている。
お客様のために頑張っている。
家族を幸せにするために頑張っている。
そう考えているのですが、
残念ながらこの考えは家族には伝わりません。
家族の関心事は他社に対する気遣いや思いやりであり
お客様やお金ではないのです。

家族は肝心な時にお父さんがいないことで
お父さんへの疑念がわいてきます。
「仕事と家庭とどっちが大事なの?」
「私たちの事はずっとほかりっぱなしだ」
「僕たちのことなんかどうでもいいんだ」と
考えてしまいます。
そして不信感が募り、家庭は崩壊へと向かいます。

全国屈指のチェーン店を築いたS社長も
そうした危機を迎えた一人でした。

S社長は父が興した一号店を引き継ぎ、
今の規模に拡大、業界有数のチェーン店を築きあげました。
その間は仕事が楽しく、家庭をなかなか
顧みることはできませんでした。
まさに家族との時間を犠牲に仕事に打ち込んでいたのです。

が、その一方で家庭が荒れました。
そんなある日、奥様から次のように言われます。
「あなたにとって私は何なの?」

この言葉にS社長はハッと気が付きます。
自分が「家族を犠牲にして働いていた」のではなく
「家族の犠牲があったから働くことができた」という事実に。

そして、社是を次のように改めました。
「家族、同僚、お客様に感謝し、
世の中の正しい流れを素直に受け入れ
自己実現のために楽しく生きよう」

ここで言う自己実現とは『楽しい人生』のことです。
そして、楽しい人生とは好きなことをやり
それで食べることができ
それが人々の役に立つような人生だと定義しています。

この社是への転換の最初に家族が出ている所に
S社長の家族への考え方が出ています。
また自己実現や楽しさを定義し、
その中に感謝に徹することの大切さを説いています。

この社是に変えてから、
同社の社風はすっかり変わりました。
社長がこの通り実践しているからです。

現在、同社の有給取得率は69%。
2年後には100%になると言います。
給与水準は業界内でNo.1です。
また来年にはご子息への事業承継が完了します。

会社でもラグビーでも
強くなるためには一時期経営者とその家族の
犠牲と献身はやむを得ないことかもしれません。

が、大切なのは経営者が、
会社が誰かの犠牲の上に成り立っている事実に気づき
そこに対し感謝の気持ちを持つことです。

そしてその犠牲が行きすぎるような場合は
素直に反省し、やり方ではなくあり方から見直すこと。
そのことをラグビー日本代表チームと
S社長の生き方に学びました。